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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)90号 判決

神奈川県横須賀市長坂2丁目2番1号

原告

株式会社富士電機総合研究所

代表者代表取締役

国保元愷

神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号

原告

富士電機株式会社

代表者代表取締役

中尾武

原告ら訴訟代理人弁理士

山口巌

篠部正治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

真鍋潔

飛鳥井春雄

田辺秀三

奥村寿一

主文

特許庁が平成2年審判第5225号事件について平成4年3月12日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告ら

主文同旨の判決

2  被告

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、名称を「光起電力装置の製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき昭和56年12月25日に特許出願(特願昭56-211728号)をしたところ、上記出願は、昭和62年9月30日、出願公告されたが、特許異議の申立があった。特許庁は、平成1年11月1日、上記申立が理由があるとの決定及び上記出願につき拒絶査定をしたので、原告らは、平成2年4月5日、審判請求をした。特許庁は、上記請求を平成2年審判5225号事件として審理し、平成4年3月12日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決をした。

2  本願発明の要旨

透明絶縁基板上に非晶質二酸化けい素膜を形成し、その非晶質二酸化けい素膜上に1個または複数個の透明電極を形成し、しかる後非晶質シリコン膜を前記非晶質二酸化けい素膜と1個または複数個の透明電極に跨がるように形成し、次いで必要に応じて1個または複数個の金属電極を形成することからなる非晶質シリコン光起電力装置の製造方法(別紙図面1参照)。

3  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書写し記載のとおりである。

4  本件審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由中、本願発明の要旨、引用例1及び3の記載内容(引用例1について別紙図面2参照)、本願発明と引用例1に記載された発明との一致点及び相違点並びに本願発明において非晶質二酸化けい素膜を介在させる目的が非晶質シリコン膜の剥離を防止するためであり、この点が引用例1ないし4に開示されていないことは認め、その余は争う。

(2)  取消事由

審決は、引用例2ないし4記載の技術内容の認定を誤り(取消事由1)、本願発明が構成及び作用効果の点において、引用例1ないし4記載の発明と異なるものであることを看過、誤認し、本願発明が各引用例に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到し得るものとして(取消事由2)、本願発明の進歩性を誤って否定した違法があるから、取り消されるべきである。

〈1〉 引用例2ないし4記載の技術内容の認定の誤り(取消事由1)

(a) 審決の引用例2記載の技術内容の認定について

(イ) 引用例2記載の発明は、名称が「半透明電導膜の製造方法」であり、かつ、明細書の「本発明は、光電管、撮像管等に用いられているネサとして知られている半透明電導膜の製造方法に関するものである。」(1欄18行ないし20行)旨の記載によれば、ネサ膜は半透明であり、審決が摘示しているような透明電極ではなく、また同引用例には、これが透明電極であると窺わせるような記載もない。

(ロ) 審決は引用例2の記載内容の引用に際して、「光導電素子」と摘示し、本願発明の光起電力装置と同じ技術分野であるといわんとしているようであるが、引用例2記載の発明は光電膜又は光導電膜を有する光電管又は撮像管に係るものであり、本願発明の光起電力装置とはその属する技術分野を異にする。

(ハ) 引用例2の明細書の1欄21行ないし32行の記載によれば、「従来、塩化物を主体とする原液から、半透明電導膜を作成する場合、中性又は酸性雰囲気中で支持ガラスを焼成しながら適当な噴霧器により、塩化物を主体とする原液の蒸気を、ガラス基板上において分解させ、酸化物を主体とするネサ膜を焼付けており、このような製造工程によるとネサ原液に存在している塩素等の活性元素が、基板ガラス中に存在するナトリウム等を化合して、微細な結晶を作り、甚だしい時は失透をまねく」とある。上記記載は、ある特定のネサ膜の製造方法において、ネサ膜が失透をまねくという固有の問題があることを示唆しているにすぎず、ネサ膜全ての製造方法における問題を示唆しているわけではない。

(ニ) 以上のように、引用例2には審決認定のような記載はなく、「光電管、撮像管等において、ガラス基板を焼成しながら噴霧器により、塩化物を主体とする原液の蒸気を、ガラス基板上において分解させ、酸化物を主体とするネサ膜を焼き付けるという特定の製造方法におけるガラス基板、すなわち、透明絶縁基板中のナトリウム等に起因するネサ膜、すなわち、半透明電極の失透を防止するために、透明絶縁基板と半透明電極との間にSiO等の絶縁膜を介在させること」が記載されているにすぎず、審決の引用例2の記載内容についての認定は相当でない。

(b) 引用例3について

(イ) 引用例3には、「これまでのネマチック液晶標示装置などに使用する透明ガラス電極板の製造法は、一般に600℃以上に加熱したパイレックス系、又は中性ガラス板の表面に、塩化第二錫を吹きつける等の化学的方法によって塩化錫透明導電膜を付け、これをエッチングしてガラス板の表面に導電膜パターンをつくり電極とするものであった。」(1頁左下欄下から11行ないし7行)、そして、「しかしながら、この様な方法は、…(3)アルカリ等の有害物質の液晶中への拡散、及び電極膜との反応による液晶、及び透明導電膜の劣化を避けるために、ガラス板の素材に制限を受ける。などの欠点を有している。」(1頁左下欄下から6行ないし右下欄4行)、さらに、「(3)の欠点を避けるために、ガラス板の表面に、化学的に安定な膜を、真空蒸着法又はスパッタリング法で作ることが適切であるとの考えに基づき、本発明をなすに至った。」(1頁右下欄7行ないし9行)との記載がある。

(ロ) 上記記載によれば、引用例3には、液晶標示装置において、ある特定の方法によって透明導電膜を形成する場合に、アルカリ等の有害物質に起因する透明電極の劣化を生じ、これを防止するためにはガラス板の素材に制限を受けるので、これを避けるためにガラス板の表面に、化学的に安定な膜を作るということが記載されているにすぎない。

(ハ) このように、透明電極の劣化を生じるのは、ある特定の形成方法における場合だけなのであり、あたかも全ての形成方法において透明電極に劣化を生じるような記載がされているとする審決の引用例3についての認定は相当でない。

(c) 引用例4について

(イ) 引用例4に記載された発明は、発明の名称から明らかなように液晶表示素子に関するものであり、さらに、「インジウムを主成分とする化合物を溶液にしてガラス基板に塗布し、焼成することによって酸化インジウムの透明導電膜を形成する方法が試みられている。しかし、この方法で形成された酸化インジウム膜はガラス基板との密着性が悪い。」(2頁左上欄16行ないし右上欄1行)、「本発明は、従来のガラス基板面にインジウム化合物の溶液を塗布して焼成する方法で形成された酸化インジウム透明導電膜がガラス基板面から剥離しやすい欠点を、ソーダ石灰ガラスを熱変形させない処理温度範囲内で克服した方法を提供することを目的とする。」(2頁右上欄17行ないし左下欄2行)との引用例4の記載によれば、明らかにインジウム化合物の溶液を塗布して焼成する特定の方法の固有の問題を解決することを目的としたものである。

(ロ) つまり、引用例4記載の発明は、液晶表示素子に関するものであって、インジウム化合物の溶液を塗布して焼成する方法において、透明電極の剥離を防止するためにSiO2等の絶縁膜を介在させたものであり、引用例4にあたかも全ての形成方法において透明電極がガラス基板より剥離しやすいような記載がされているとした審決の認定は失当である。

(d) 以上のように、引用例2記載の発明は半透明電極に関するものであり、引用例3及び4各記載の発明はある特定の形成方法における特有な問題を解決したものであって、透明電極全ての問題ではなく、審決のこの点についての引用例2ないし4各記載の技術内容についての認定は誤りである。

〈2〉 引用例1記載の発明と同2ないし4各記載の発明の組合わせの困難性についての誤認(取消事由2)

(a) 審決は、引用例2ないし4の記載内容によれば、本願発明の非晶質シリコン光起電力装置の係わる技術分野でも、透明電極の失透、劣化、あるいは、剥離が生じ、かかる現象が不所望なものであることは自明であること、これらの現象が透明絶縁基板に含まれるナトリウム等の有害物質に起因するものであることが自明であること及びかかる現象は同基板上に設ける膜の組成に関係なく生ずることが自明であることを理由として、非晶質シリコン光起電力装置においても、この様な不所望な透明電極の失透、劣化、或いは、剥離を防止するために、透明絶縁基板上に全面にわたって非晶質二酸化けい素膜を設けることに何ら格別の創意工夫を要するものでないと判断している。しかし、審決がその前提とした事項は全て誤りであるから、審決の上記判断は失当である。

(b) 本願発明は、非晶質シリコン膜の光起電力装置の改良及びその製造方法に関するものであるところ、本願発明の要旨のとおりの構成とすることにより、従来の透明絶縁基板上に直接非晶質シリコン膜を設けた光起電力装置では、非晶質シリコン膜の形成(成長)速度を上げると絶縁基板上に直接成長した非晶質シリコンの部分が剥離しやすくなるという欠点があったため、この欠点を除去することを課題として、透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との間に非晶質二酸化けい素膜を介在させる構成を採択することにより、透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との剥離を起こりにくくし、しかも成長時間の短い非晶質シリコン膜を形成させることができるという顕著な作用効果を奏するものである。本願発明において、非晶質二酸化けい素膜を介在させる目的は、非晶質シリコン膜の剥離を防止するためである。引用例2ないし4には、透明絶縁基板上に形成された非晶質二酸化けい素膜の同基板と接合しない側に非晶質シリコンが形成される旨の記載がない。また、引用例1ないし4には、本願発明の上記課題についても開示するところもない。

(c)(イ) このように、引用例2ないし4には、透明絶縁基板上に形成された非晶質二酸化けい素膜の同基板と接合しない側に非晶質シリコンが形成される旨の記載がなく、引用例1ないし4には、本願発明の課題が示唆されていないのであるから、透明絶縁基板上に非晶質シリコン膜を形成した引用例1記載の発明に、技術分野の異なる液晶表示素子等の、透明絶縁基板上に非晶質二酸化けい素膜を形成した引用例2ないし4各記載の発明を組み合わせることは困難である。さらに、本願発明及び引用例1記載の発明のような光起電力装置においては、引用例2ないし4記載の発明のような電極の失透、劣化、剥離といった問題がないので、やはり引用例1記載の発明に引用例2ないし4各記載の発明を組み合わせることは困難である。また、仮に、引用例1記載の発明に引用例2ないし4各記載の発明を組み合わせたとしても、引用例2ないし4には非晶質二酸化けい素膜がガラス板(透明絶縁基板)及び透明電極以外の他の部材と接合することについて記載されていないので、本願発明のように透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との間に非晶質二酸化けい素膜が介在する構成とはなり得ないのである。そして、引用例2ないし4各記載の発明は、光起電力装置と異なる光電管又は撮像管及び液晶表示素子における半透明電極あるいは透明電極を形成するある特定の製造方法における問題を解決したものである。このように、ある素子(例えば、液晶表示素子)のある特定の製造方法での固有な問題を異なる技術分野の素子(光起電力装置)が必ずしも有するとは限らないのである。

(ロ) 審決が摘示する、目的の相違が主観的認識における相違にすぎないとされるのは、その両者の構成が同一であるときだけである。上記(イ)で述べたとおり、引用例1ないし4に記載された発明については、非晶質シリコン膜と非晶質二酸化けい素膜とが接合する構成であることについての記載も示唆もないのであるから、本願発明とその構成は同一ではない。しかして、本願発明の効果は上記(b)で述べたように、「透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との間に非晶質二酸化けい素膜を介在させることにより、透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との剥離を起こりにくくし、しかも成長時間の短い非晶質シリコン膜を形成させる。」という点にあり、この効果は引用例2ないし4に記載された透明電極の失透、劣化、剥離とは異なるから、本願発明の目的と引用例1ないし4の目的との相違は主観的認識における相違に止まらない。

(ハ) 以上のように、本願発明が引用例1ないし4によって予測することのできない顕著な作用効果を奏するものであるにもかかわらず、審決は、かかる作用効果について全く考慮にいれず、本願発明の作用効果についての認定判断を誤まった。

第3  請求の原因の認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4のうち(2)〈2〉(b)は認め(但し、本願発明の奏する効果が顕著であることは争う)、その余は争う。

2  審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の違法はない。

(1)  取消事由1について

〈1〉 引用例2について

引用例2に記載されたネサ膜が、透明導電膜すなわち、透明電極と呼称されていることは、透明導電膜の技術分野では周知の事項である(乙第1号証、353頁左欄の表5、及び表4と表5との間の記載欄)から、「ネサ膜すなわち透明電極」とした審決の認定に誤りはない。ただ、実際には、完全な透明体でないため、引用例2のように半透明というか透明というかは単なる呼称の相違にすぎない。

引用例2には、ネサ膜と光導電面との光結合の増大と、合成素子の長寿命化を図ったものであり、光電変換素子との結合光学系によって選択された光学的成分を持つガラス基板上にSiO等の蒸着膜を設け、その上にネサ膜を噴霧蒸気中で焼成する旨が記載されているように、引用例2の発明者は、光電管、撮像管等を光電変換素子と認識しているものであり、審決は、光起電力型の光電変換素子である本願発明と光導電膜を有する光電変換素子、すなわち光導電型の光電変換素子との相違を認識しているがゆえに「光電変換素子」ではなく、敢えて光導電型の光電変換素子、すなわち「光導電素子」と認定したものである。いいかえれば、光電管、撮像管は、本願発明の光起電力装置とは同じ「光電変換素子}として共通する技術内容を含むものであるが、本願発明は、「光電変換素子」の光起電力型に属し、光電管、撮像管は、「光電変換素子」の光導電型に属するものである。また、審決は、引用例2に関して、全ての製造方法において失透が生ずることが記載されている旨認定したものでないから、審決の認定に誤りはない。

〈2〉 引用例3について

引用例3には、透明導電膜膜の劣化を防止するために、複数の製造方法が記載されているものであって、ある特定の形成方法における場合のみを問題にしているものではない。

審決は、引用例3に関して、全ての製造方法において劣化が生ずることが記載されている旨認定したものでないから、審決の認定に誤りはない。

〈3〉 引用例4について

審決は、引用例4に関して、全ての製造方法において剥離が生ずることが記載されている旨認定したものでないから、審決の認定に誤りはない。

〈4〉 引用例2ないし4に記載された技術事項はガラス基板上に設けた透明導電膜に関する事項である点で共通の技術分野を構成するものであり、かつ引用例2ないし4に記載された失透、劣化、剥離の原因は全て、ガラスに含有されるナトリウム等のアルカリ元素に起因する点でも共通するものである。したがって、引用例2ないし4に開示された技術内容から全体的に判断するならば、他に特段の事情がない限り、通常の製造方法でナトリウム等のアルカリ元素を含有するガラス基板上に透明導電膜を形成した場合に、失透、劣化、あるいは剥離が生じやすいとすることが相当であるから、審決の技術内容の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

〈1〉 上記(1)〈1〉で述べたとおり、引用例2は「光電変換素子」に関するものであり、光起電力型の光電変換素子である本願発明の光起電力装置と共通する技術内容を含むものであり、特に、ガラス基板上に透明導電膜を設ける非晶質シリコン等の薄膜半導体光起電力装置とは共通部分を多くするものである。また、引用例3及び4は液晶表示装置に関するものであっても、その具体的内容は、液晶自体に関するものではなく、液晶表示装置のガラス基板と透明導電膜に関するものであり、本願発明の光起電力装置と共通する技術内容を含むものである。

このように、引用例2ないし4に記載されたガラス基板と透明導電膜に関する技術事項が、透明導電膜技術として本願発明の非晶質シリコン等の薄膜半導体光起電力装置と共通する技術分野である(乙第1及び第2号証)。

そして、非晶質シリコン光起電力装置においても、その透明電極に失透、劣化、剥離が生ずるおそれのあることは、共通する技術分野に関する引用例2ないし4の各記載より容易に推察できることであるから、透明電極の失透、劣化、剥離が非晶質シリコン光起電力装置において不所望であることは、当業者にとって自明の事項である。

したがって、引用例1の非晶質シリコン光起電力装置において、引用例2ないし4に開示されたガラス基板と透明電極膜との間に二酸化けい素等の絶縁膜を介在させる技術を転用することに何ら格別の創意工夫を要しない。

〈2〉 本願発明の課題が透明絶縁基板と非晶質シリコン膜の剥離防止にあることは争わないが、上記〈1〉のとおり、引用例2ないし4に記載された光電変換素子、液晶表示装置におけるガラス基板上の透明電極の失透、劣化、剥離に関する技術事項を光起電力装置に転用することに何ら格別の創意工夫を要しないところ、転用した場合には、パターン化された透明電極が存在する部分以外では、ガラス基板上の非晶質二酸化けい素膜と非晶質シリコンとは、必然的に接合することになるものである(なお、透明電極が存在しない部分の非晶質二酸化けい素膜をエッチング除去することも考えられるが、そのためには製造工程が増加し、技術的に格別の意味をなさないものである。)ので、ガラス基板上の非晶質二酸化けい素膜と非晶質シリコンとが接合する構成は当業者であれば容易に想到できるものである。そして、引用例2ないし4には光起電力装置における非晶質シリコン膜の剥離を防止するという本願発明の目的は記載されていないものの、上記のとおり、光起電力装置におけるガラス基板上の透明電極の失透、劣化、剥離を防止するという目的から本願発明の構成が得られるものであり、その構成から得られる効果も、上記〈1〉に示したような不所望な点の解消によって当然得られる効果で予測可能なものである。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨及び3(審決の理由)は、当事者間に争いがない。

(2)  審決の理由中、引用例1及び3の記載、本願発明と引用例1との一致点及び相違点は当事者間に争いがない。

2  本願発明の概要

本願発明は、非晶質シリコン膜の光起電力装置の改良及びその製造方法に関するものであるところ、従来の透明絶縁基板上に直接非晶質シリコン膜を設けた光起電力装置では、非晶質シリコン膜の形成(成長)速度を上げると絶縁基板上に直接成長した非晶質シリコンの部分が剥離しやすくなるという欠点があったため、この欠点を除去することを課題として、透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との間に非晶質二酸化けい素膜を介在させる構成を採択することにより、透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との剥離を起こりにくくし、しかも成長時間の短い非晶質シリコン膜を形成させることができるという作用効果を奏し得たものであることは当事者間に争いがない。

3  原告ら主張の審決の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉  引用例2記載の技術内容について

(a) 審決がネサ膜を透明電極と認定した点について

成立に争いのない甲第4号証(特公昭47-12000号公報、引用例2)によれば、引用例2には、「本発明は、光電管、撮像管等に用いられているネサとして知られている半透明導電膜の製造方法に関するものである。」(1欄20行ないし22行)旨の記載があることが認められるが、成立に争いのない乙第1号証(電子通信学会編 電子通信ハンドブック 昭和54年3月30日第1版第1刷発行)(353頁左欄の表5、及び表4と表5との間の記載)によれば、SnCl2水溶液からスプレー法により得られる電極であるSnO2(Sb2O5)膜がNESA膜(ネサ膜)と称され、これが透明電極として記載されていることが認められるから、ネサ膜が透明電極と呼称されていることは導電材料を扱う技術分野では、本願発明出願(昭和56年12月25日)前、周知であったと認められる。引用例2において、「半透明」という表現は、全くの透明ではなく、曇りのかかった状態を表すために用いられたと推認されるから、同引用例に記載されたネサ膜を透明電極と認定することは何ら誤りではないと解される。

(b) 審決が「光導電素子」と認定した点について

上記(a)で判示した引用例2の記載によれば、引用例2記載の発明は、光電管、撮像管等に用いられている導電膜の製造方法に関する発明であることが認められるが、前掲甲第4号証によれば、引用例2には、「本発明は、…光電面又は光導電面を製作する製造方法に関するものである。」(2欄7行ないし20行)旨記載されていることが認められ、上記記載によれば、引用例2記載の光電管、撮像管は光導電面を有する装置であることが認められるから、かかる装置を「光導電素子」と認定することには何らの問題はない。審決は、かかる認定において、「光導電素子」と本願発明の光起電力装置とは同じ素子であるという認定をなしているものではない。

(c) 前掲甲第4号証によれば、引用例2には、「従来、塩化物等を主体とする原液から、半透明電導膜を作成する場合、…中性又は酸性雰囲気中で支持ガラスを焼成しながら適当な噴霧器により、塩化物を主体とする原液の蒸気を、ガラス基板上において分解させ、酸化物を主体とするネサ膜を焼付けておった。しかしながら、上述の工程中において、…、ネサ原液中に存在している塩素等の活性元素が、基板ガラス中に存在するナトリウム等を化合して、微細な結晶を作り、甚だしい時は失透をまねく」(1欄23行ないし34行)、及び、「本発明は、前述のネサ原液中の活性元素と、支持ガラス中の元素との結合によって生ずる欠点を取除き、…ネサ膜と光電面又は、光導電面との光学的結合の増大と、合成素子の長寿化をも計ったものである。すなわち、…ガラス基板上にSiO等の蒸着膜を付け、…、この蒸着面上に、…ネサ膜を噴霧蒸気中で、焼成した後、光電面又は光導電面を製作する製造方法に関するものである。」(2欄7行ないし20行)旨の記載があることが認められ、上記記載及び前記(a)及び(b)で判示したところによれば、引用例2には、審決認定のとおりの記載があることが認められる。

しかしながら、審決の上記認定によって、引用例2の記載がネサ膜全ての製造方法における問題を示唆していると認定したとは認められない。

(d) 原告らは、上記甲第4号証の1欄23行ないし34行の記載はネサ膜全ての製造方法を示したものでない旨主張するが、審決は、ネサ膜全ての製造方法における問題を示唆したものとして、引用例2の記載を認定したものではなく、本件の争点に関連のある技術的事項として認定したものにすぎないと認められるから、もとより同引用例記載の技術内容を誤認したものではない。

〈2〉  引用例3の技術内容について

引用例3に審決認定のとおりの記載があることについては当事者間に争いがないところ、原告ら主張のように、審決は、上記記載により、引用例3に全ての製造方法において透明電極に劣化を生じることが示唆されているとの認定をしたものではなく、本件の争点に関連のある技術的事項として取り上げたにすぎないものと認められるから、もとより同引用例記載の技術内容を誤認したものではない。

〈3〉  引用例4の技術内容について

(a) 成立に争いのない甲第6号証(特開昭54-99449号公報、引用例4)によれば、引用例4には、「液晶表示素子の製造において、ガラス基板面に電気絶縁性の金属酸化膜を形成させて下地膜とし、その上に活剤を含むインジウム化合物の溶液を塗布したのち焼成することによって、透明電導膜を形成させることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。」(1頁左下欄7行ないし12行)、「本発明は、従来のガラス基板上にインジウム化合物の溶液を塗布して焼成する方法で形成された酸化インジウム透明導電膜がガラス基板面から剥離しやすい欠点を、ソーダ石灰ガラスを熱変形させない処理温度範囲内で克服した方法を提供することを目的とする。」(2頁右上欄17行ないし左下欄2行)、「この様なナトリウムイオンの存在しているガラス基板にインジウム化合物を塗布し、焼成して酸化インジウム透明導電膜を形成させる従来の溶液塗布法により形成された酸化インジウム透明導電膜は、この膜と直接接触するガラス基板面に…ナトリウムが比較的高濃度に析出して来ているために、…剥離しやすく、」(2頁左下欄18行ないし右下欄6行)、「本発明は酸化インジウム膜形成に先立ってガラス基板面上に化学的に安定な電気絶縁性のある金属酸化膜を形成させ、基板ガラス中から表面に析出してくるアルカリ金属たとえばナトリウムの悪影響が阻止されるようにしておいて、酸化インジウム膜は前記化学的に安定な金属酸化膜を下地膜としてその上に形成するのである。」(2頁右下欄8行ないし15行)、及び、「電気絶縁性のある金属酸化物としては酸化珪素」(2頁右下欄18行ないし19行)、「酸化珪素を例にとれば、SiO2の真空蒸着法、SiO2のスパッタリング法」(3頁左上欄4行ないし5行)旨の記載があることが認められ、上記記載によれば、引用例4には、審決認定の記載があることが認められる。

(b) 原告らは、審決は、あたかも全ての形成方法において、透明電極がガラス基板より剥離しやすいような判断をしたもので、失当であると主張する。しかしながら、審決は、引用例4についての上記記載により、全ての場合に透明電極がガラス基板より剥離が生じやすいことが示唆されているものと認定したものではなく、本件の争点に関連のある技術的事項として取り上げたにすぎないものと認められるから、もとより同引用例記載の技術内容を誤認したものではない。

(2)  取消事由2について

〈1〉  当事者間に争いのない本願発明の要旨及び本願明細書添付の図面(第2号証の1、別紙図面1)によれば、本願発明は、透明絶縁基板上に非晶質二酸化けい素膜を形成し、その非晶質二酸化けい素膜上に一個又は複数個の透明電極を形成し、しかる後非晶質シリコン膜を前記非晶質二酸化けい素膜と一個又は複数個の透明電極に跨がるように形成するものであるが、透明電極と透明絶縁基板とが対向する部分については、引用例2ないし4に記載されたものと同じく、透明電極と透明絶縁基板との間に二酸化けい素膜が形成された構成となっていることが認められる。しかしながら、本願発明においては、透明電極は透明絶縁基板の全面に形成されておらず、透明電極が形成されていない部分については非晶質シリコン膜が透明電極を介在させずに透明絶縁基板と対向し、当該対向部分である非晶質シリコン膜と透明絶縁基板との間に二酸化けい素膜が形成された構成となっており、かかる構成、すなわち透明絶縁基板上に形成された非晶質二酸化けい素膜の同基板とは反対側に非晶質シリコン膜が形成される構成が引用例2ないし4のいずれにも記載されていないことは当事者間に争いのないところである。

しかして、前記(1)に認定したところによれば、本願発明と引用例2ないし4各記載の発明は同一技術分野に属するものというべきところ(引用例1記載の発明も、当事者間に争いのないその記載内容に照らし本願発明と同一技術分野に属することは明らかである。)、前記のとおり、当事者間に争いのない「透明絶縁基板上に複数個の透明電極を形成し、しかる後非晶質シリコン膜を前記複数個の透明電極に跨がるように形成」する構成である引用例1記載の発明に、前記のように引用例2ないし4に開示された「透明絶縁基板と透明電極との間に非晶質二酸化けい素膜を形成する」構成を適用しても、引用例1記載の発明は複数個の透明電極と透明絶縁基板との間に非晶質二酸化けい素膜が形成されるのみで、複数個の透明電極の中間に位置する透明絶縁基板と非晶質シリコン膜が対向する部分に非晶質二酸化けい素膜が形成されることとされている本願発明の構成を導くことはできないものである。

〈2〉  前記2のとおり、本願発明は従来の透明絶縁基板上に直接非晶質シリコン膜を設けた光起電力装置では、非晶質シリコン膜の形成(成長)速度を上げると絶縁基板上に直接成長した非晶質シリコンの部分が剥離しやすくなるという欠点があったため、この欠点を除去することを課題として、透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との間に非晶質二酸化けい素膜を介在させる構成を採択することにより、透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との剥離を起こりにくくし、しかも成長時間の短い非晶質シリコン膜を形成させることができるという作用効果を有するものであるところ、引用例2ないし4にかような本願発明の課題に関する開示のないことは当事者間に争いがない。

審決は、透明絶縁基板と透明電極との間に非晶質二酸化けい素膜を介在させるという同一の構成により得られる効果が同一であるから、本願発明の非晶質シリコン膜の剥離を防止するための目的が引用例2ないし4各記載の発明の目的と異なっても、かかる目的の相違は、単なる主観的認識の相違にすぎないと判断するが、前記のとおり、本願発明の透明電極が形成されていない部分について非晶質シリコン膜と透明絶縁基板との間に二酸化けい素膜が形成された構成は引用例2ないし4には開示されておらず、かかる構成により得られる透明絶縁基板と非晶質シリコン膜との剥離を起こりにくくさせる効果は、引用例2ないし4に示唆されていないものであるから、そもそも、本願発明は、引用例2ないし4各記載の発明と同一の構成により同一の効果を奏するものではない。

したがって、審決の上記判断は失当であり、本願発明は、本願発明の要旨の構成を採用することによって、格別の効果を奏するものと認められる。

〈3〉  以上述べたところによれば、本願発明が引用例1ないし4に記載された発明に基づいて容易になし得るとした審決の判断は誤りである。

被告は、引用例1記載の発明と引用例2ないし4各記載の発鴫を組み合わせれば、パターン化された透明電極が存在する部分以外では、ガラス基板上の非晶質二酸化けい素膜と非晶質シリコンとは必然的に接合することになるものであるので、ガラス基板上の非晶質二酸化けい素膜と非晶質シリコンとが接合する構成は当業者であれば容易に想到できるものであると主張する。

しかしながら、本願発明の構成を採用するにあたって、透明電極が存在する部分以外では、ガラス基板上の非晶質二酸化けい素膜と非晶質シリコンとは必然的に接合することになるのであり、かかる構成を採択すべきか否かについては当然検討されるはずであり、上記のとおり、本願発明において、従来「シリコン膜の形成(成長)速度を上げると絶縁基板上に直接成長した非晶質シリコンの部分が剥離しやすくなる」という問題点を認識した上でかかる構成を採用し、かかる問題点の解決を課題として、非晶質シリコン膜の剥離を防止するために、非晶質二酸化けい素膜を介在させる構成としたことが認められるのであるから、被告主張のように、本願発明がこの点について何の問題意識もなく、結果として必然的に接合したものと認めるのは相当ではない。まして、上記のような問題点を認識しているのであるから、透明電極が存在しない部分の非晶質二酸化けい素膜をエッチング除去することも考えられるわけで、製造工程が増加しても、かかる工程をとることも課題解決の方法として有用であれば、採用することもあり得るのである。したがって、被告の主張は失当である。

このほか、審決は、本願発明が透明絶縁基板と透明電極との間に非晶質二酸化けい素膜を介在させることにより、引用例2ないし4各記載の発明同様、透明電極の失透、劣化、剥離を防止し得る旨判断し、原告らはこれを争うが、本件においては、本願発明が非晶質二酸化けい素膜を介在させることにより、非晶質シリコン膜の剥離防止の効果を奏し得た点の顕著性が問題とされているのであるから、非晶質二酸化けい素膜による透明電極の剥離等の防止の効果から非晶質シリコン膜の剥離防止の効果まで推考し得るのであれば格別、そのような事項について全く審決で取り上げられておらず、また、そのような推考が可能であることを窺わせる証拠もない以上、本願発明における透明電極の剥離等の防止の効果について触れる必要はない。

4  以上のとおり、審決は引用例1記載の発明に引用例2ないし4各記載の発明を組み合わせれば、本願発明の構成を得るものと誤った判断をなし、また、本願発明の作用効果についてもその顕著性を看過したものであり、その誤りは結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、取消を免れない。よって、本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 押切瞳)

平成2年審判第5225号

審決

横須賀市長坂2丁目2番1号

請求人 株式会社 富士電機総合研究所

神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号

請求人 富士電機株式会社

神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内

代理人弁理士 山口巌

昭和56年特許願第211728号「光起電力装置の製造方法」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年9月30日出願公告、特公昭62-46074)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ.本願は昭和56年12月25日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告後の昭和63年7月8日付け、平成2年4月27日付け、及び平成3年12月20日付けの各手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、

「透明絶縁基板上に非晶質二酸化けい素膜を形成し、その非晶質二酸化けい素膜上に1個または複数個の透明電極を形成し、しかる後非晶質シリコン膜を前記非晶質二酸化けい素膜と1個または複数個の透明電極に跨がるように形成し、次いで必要に応じて1個または複数個の金属電極を形成することからなる非晶質シリコン光起電力装置の製造方法。」

にあるものと認める。

Ⅱ.これに対して、当審において、平成3年10月8日付けで通知した拒絶理由において引用した特開昭55-107276号公報(以下、「引用例1」という)には、「透明絶縁基板上に複数個の透明電極を形成し、しかる後非晶質シリコン膜を前記複数個の透明電極に跨がるように形成し、次いで必要に応じて複数個の金属電極を形成することからなる非晶質シリコン光起電力装置の製造方法」が記載されており、また、同じく引用した特公昭47-12000号公報(以下、「引用例2」という)には、光導電素子において、ガラス基板、即ち、透明絶縁基板中のナトリウム等に起因するネサ膜、即ち、透明電極の失透を防止するために、透明絶縁基板と透明電極との間にSiO等の絶縁膜を介在させることが記載されている。

さらに、同じく引用した特開昭47-39118号公報(以下、「引用例3」という)には、液晶表示装置において、ガラス基板、即ち、透明絶縁基板中のアルカリ等の有害物質に起因する透明導電膜、即ち、透明電極の劣化を防止するために、透明絶縁基板と透明電極との間にSiO2等の絶縁膜を介在させることが記載されており、同じく引用した特開昭54-99449号公報(以下、「引用例4」という)には、液晶表示装置において、ガラス基板、即ち、透明絶縁基板中のナトリウム等のアルカリ金属に起因する透明導電膜、即ち、透明電極の剥離を防止するために、透明絶縁基板と透明電極との間にSiO2等の絶縁膜を介在させることが記載されている。

Ⅲ.そこで、本願発明と引用例1に記載された発明とを対比検討すると、両者は、「透明絶縁基板上に複数個の透明電極を形成し、しかる後非晶質シリコン膜を前記複数個の透明電極に跨がるように形成し、次いで必要に応じて複数個の金属電極を形成することからなる非晶質シリコン光起電力装置の製造方法」である点で一致しているものの、本願発明においては、透明絶縁膜板上に非晶質二酸化けい素膜を設けているのに対して、引用例1に記載された発明おいては、その様な非晶質二酸化けい素膜が存在しない点で一応相違している。(相違点)

Ⅳ.以下、上記相違点について検討する。

非晶質シリコン光起電力装置と同様に、絶縁基板上に透明電極を設けることをその主要な構成要素とする光導電素子、或いは、液晶表示装置において、透明絶縁基板に含まれるナトリウム等の有害物質に起因する透明電極の失透、劣化、或いは、剥離を防止するために、透明絶縁基板と透明電極との間にSiO2等の絶縁膜を介在させることが引用例2乃至引用例4に記載されており、且つ、このSiO2が非晶質二酸化けい素膜であることは当業者にとって自明である。

そして、この様な透明電極の失透、劣化、或いは、剥離が非晶質シリコン光起電力装置においても不所望なものであることは当業者にとって自明であり、また、この透明電極の失透、劣化、或いは、剥離が透明絶縁基板に含まれるナトリウム等の有害物質に起因するものである以上、その上に設ける膜の組成に関係なく生ずるものであることも当業者にとって自明であるといわざるを得ないものであるので、非晶質シリコン光起電力装置においても、この様な不所望な透明電極の失透、劣化、或いは、剥離を防止するために、透明絶縁基板上に全面にわたってSiO2、即ち、非晶質二酸化けい素膜を設けることに何ら格別の創意工夫を要するものということはできない。

なお、本願発明は、非晶質二酸化けい素膜を介在させる目的が、非晶質シリコン膜の剥離を防止するためであり、この点は引用例1乃至引用例4に開示されていないものの、目的相違は、他に特段の事情がない限り単なる主観的認識における相違にすぎず、透明絶縁基板と透明電極との間に非晶質二酸化けい素膜を介在させる構成が、この様な主観的認識とは無関係に得られるものであることは上述のとおりであり、且つ、結果としても発明者の主観的認識の如何に拘らず同一の目的を達し、同一の効果を奏することになるものである。

Ⅴ.以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1乃至引用例4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に該当し特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年3月12日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙図面 1

図面の簡単な説明

第1図は、従来技術の光起電力装置の断面図である。第2図は、本発明の方法によつて製造されたいくつかの光起電力装置の断面図である。

ここで、1は透明絶縁基板、2透明電極、3は非晶質シリコン膜、4は金属電極、5は非晶質二酸化けい素膜。

〈省略〉

別紙図面 2

(1)…絶縁基板、(8)、(9)、(10)…第1、第2、第3発電区域、(11)…非晶質シリコン層

〈省略〉

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